クラスI抗原のタイピングは、新鮮リンパ球を用いた微量細胞傷害試験により行われきた。しかし、最近では血清学レベルで検査できる抗原よりも、さらに詳細に分類可能なDNAタイピングが用いられつつある。法医学では、試料が古い場合や、リンパ球が採れない場合が多いので、なお一層DNAタイピングは利用価値が高い。本年度は、血清学レベルの遺伝子型を検出可能なPCR-SSP法を用いたDNAタイピングについて検討した。そのために、96種類のプラマーを作製し、HLA抗原既知の健常人血液リンパ球から抽出したDNAを用いて遺伝子タイピングを行った。その結果血清学的にタイプされたHLA抗原に一致したアリルが確認され、既知の特異性と同等、あるいはそれ以上の詳細な結果が得られた。法医試料として血痕から抽出したDNA、大腿骨より得たDNAをタイピングした結果、いずれもタイピンが可能であったが、相当量のDNA(1μg以上)が必要であり、毛髪1本からのタイピングなど微量DNAを扱う場合には、判定不能である場合があることが確認された。今後、クラスI DNAタイピングもクラスIIで試みられた方法と同様nested PCRあるいはsemi-nested PCRをもちいた遺伝子タイピングができれば、法医学での検査で更に強力な武器となる。このような微量なサンプルでも検査可能な方法があればこのような問題点は克服されると思われる。現在、我々はクラスI領域を含む1.8Mbの長さに渡る全塩基配列のデータを保持しており、この配列内にあるマイクロサテライト多型を検索して、その多型性について検討中である。これらのマイクロサテライトのうち、遺伝情報量の多いものを選択し、クラスI遺伝子との連鎖などを検討すれば、マイクロサテライトの特性から微量でも検査可能であることから法医学領域で威力を発揮するものと思われる。
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