研究概要 |
飲酒後,顔面紅潮や心悸亢進など不快症状を呈するヒトは,アルデヒド脱水素酵素(ALDH)のlow Km isozymeの活性を欠き,ALDH2の遺伝子としてALDH2^*2を有することが知られている.特に,ALDH2^*2/^*1のheterozygoteは,ALDH2^*1/^*1のhomozygoteのように多量の飲酒は困難であるが,少量の飲酒後間隔を置くと,顔面紅潮など不快症状の軽減が観察された.この原因として,少量のアルコール摂取が,ALDHの活性を高めたことが考えられる.そこで本研究では,健康な日本人被験者を用い,0.1g/kgまたは0.4g/kgのアルコール摂取の前後における末梢血中よりmRNAを抽出し,これをcDNAに逆転写し,ALDH2mRNAと相補的な配列を持っcDNAを増幅し,β-actinのmRNA量を対照として定量した. 0.4g/kgのアルコール負荷によって,いずれの被験者においてもALDH2mRNAは,β-actinmRNAの約1/250程度ながら発現が認められ,末梢リンパ球においても構成的に発現していた.さらに飲酒後比較的早い時間帯において2-3倍に増加した.次に0.1g/kgの負荷によって,heterozygoteにおいてのみ,mRNAの増加が認められた.したがって,ALDH2遺伝子は飲酒刺激により少なくとも転写が増加するタイプの遺伝子であり,アセトアルデヒドの影響を受けることが証明された.今回の実験系で用いた末梢血中リンパ球におけるALDH2mRNAの発現は,主に肝臓におけるアセトアルデヒド代謝の効果を反映すると考えられ,飲酒後早期に誘導が起こることを示唆しているものと考えられる.
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