今回我々はPCRによるSTR多型検出法の感度をさらに高め、超微量の試料DNAからの多型検出を可能とし、従来はほとんど省みられなかった指紋からのDNA多型の検出を試みた。 指紋からのSTR多型検査に先だって、STR多型の高感度検出法について検討した。通常のPCR法とDual-PCR法によるSTR多型の検出感度を比較した結果、Dual-PCR法により検出を行った場合には、通常のPCR法に比べて10倍ないし数十倍程度感度が向上した。なお、これらの方法をPEP法と併用した場合には、PEP法と通常のPCR法との併用では10倍程度感度が向上し、PEP法とDual-PCR法を併用した場合の感度は、Dual-PCR法のみの場合とほぼ同様であった。 次に、ガラス、金属(ステンレス)、紙(上質紙)、プラスチック(ポリスチレン)に実験的に付着させた指紋から、高感度化したPCR法によりSTR多型の検出を試みたところ、Dual-PCR法およびPEP法とDual-PCR法との併用法により1個の指紋からアレルの検出が可能であった。 今回試みた指紋からのDNA抽出・精製法の中では、抽出DNAをセントリコン50またはシリカフィルターにより精製した場合に良好な成績が得られた。 今回検査したSTR多型3座位の中では、増幅DNA断片長が最も長いCSF1PO座位(299-323bp)の増幅がやや不良であったが、これは指紋から回収されるDNAが低分子化しているためと推測された。なお、指紋の顕出に用いられるアルミニウム粉末、ニンヒドリン試薬は指紋からのSTR多型検出の妨げとはならなかった。
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