研究概要 |
頚部圧迫(縊・絞・扼頚)群7例、鼻口閉塞・気道内異物群6例、溺死群7例、乳幼児急死症候群7例、呼吸不全群5例、心不全群8例、中毒死群7例、熱射病群5例の合計8群の52例について脳幹部の弓状核(ARC)、舌下神経核(HN)と下オリーブ核(IO)の神経細胞について一般染色(HE,KB)の他に免疫組織化学的に神経細胞骨格蛋白(MAPZ)、ムスカリン様アセチルコリン・レセプター(mAch-R)、アポトーシス遺伝子産物(C-FOS)、熱ショック蛋白質(HSP72)を染色し、各群ごとに陽性症例の率を検討した。その結果以下の知見が得られた。 1.窒息症例(頚部圧迫群、鼻口閉塞・気道内異物群、溺死群)においてHNの神経細胞に明らかな形態障害は認められなかったが、機能障害(HSP72,C-FOS陽性像)が生じていた。このHN神経細胞障害は上記気道障害を反映しているものと考えられた。HN障害は窒息3群の中で鼻口閉塞・気道内異物群で最も高率に認められた。法医解剖実務において鼻口閉塞の診断は重要である。さらに詳細な検討が必要と考える。 2.IO神経細胞障害は8群のうち溺死群と中毒死群に高率に認められた。溺死時には身体平衡障害が錐体部出血の結果生じるといわれているが、IO障害はその影響があると推定された。溺死における平衡機能障害の存在は死亡に至る経過を知るうえで極めて重要となる場合がある。溺死の診断の補助診断となるうるものと考える。 3.ARCのmAch-R陽性神経細胞は8群の中で乳幼児急死症候群(SIDS)と心不全群で低率であった。SIDSではARCのmAch-Rが低下しているという報告があるが、一致していた。一方、我々の検討結果ではmAch-R陽性細胞の数に差はなく、陽性細胞の割合に差がある傾向がえられた。この結果は従来の報告と違う点であり、詳細な解析を行い結論づける必要があると考える。
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