研究概要 |
頚部圧迫による窒息死死体から採取し、伸展してホルマリン固定した頚部皮膚から圧迫部を含む小片を採りパラフィン包埋した後、皮膚表面に対して、1.垂直に薄切した全層切片,2.水平に薄切した送別切片とを切り出してスライドガラスに貼付し,常法にしたがって脱パラフィンしたものを試料として次の様な検討を行った。すなわち、まず、分子量234から1373に至る40種の色素の酢酸を加えた燐タングステン酸水溶液による染色液を調製し、各染色液によって全層切片を染色して圧迫部と非圧迫部の膠原線維の染まり具合を観察した。分子量が900を超える大きな分子の色素の場合,圧迫部は予想通り染色されなかったが、非圧迫部に対する染色性も良好なものではなかった。分子量が900から600前後の色素では,おおむね非圧迫部をよく染めるが,圧迫部に対しては良く染めるものと然らざるものとがあった。分子量が600以下の色素は,非圧迫部より圧迫部を良く染める傾向が認められた。一方,層別切片については,型の如くオルセイン染色を施して弾性線維の走行を観察した。この結果,真皮の中層から深層がこの目的に適う層であることを認めた。また,過去に作成した標本も含めた検討によって,非圧迫部の弾性線維の走行が整然としているのに対して,生前の圧迫部では走行が乱れ,断裂した断端が捲縮していることを確認した。 以上の成績から,軽度のものであったとしても圧迫部と非圧迫部の膠原線維を染め分けられる様な染色色素の組合わせを検索し,その染色法と重染色が可能な弾性線維染色法を求め,真皮中層の層別切片を染色することによって生前に加えられた圧迫の存在を識別できる様な染色法を開発することが今後の課題である。
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