ラット腹腔に四塩化炭素を投与し、急性肝炎を作成、その治癒過程を組織化学的および生化学的に検討した。ラット血清の生化学検査および肝細胞のHE染色、アポトーシス染色、抗BrdU染色の結果は、四塩化炭素投与後1日目に肝組織の障害が最も著明で、その後2日目より4日目にかけて肝細胞のDNA合成、細胞分裂が起き、障害組織の修復再生が進行することを示す結果を得た。一方、障害に伴って低下した肝粗抽出物中の肝特異酵素、セリンデヒドラターゼの比活性は4日以降に回復を開始し、7日目に正常のレベルにまで回復した。このことは、再生肝細胞の成熟(分化)が4日目以降に行われることを示している。本研究の独創的着目点である脳胎児型ミオシン重鎖の発現は、肝組織の再生(増殖)が終了し成熟(分化)を開始する時期(4日目)をピークとして一過性に認められ、細胞の分化過程において機能する可能性を強く示唆した。したがって、炎症など組織障害の治癒過程において脳胎児型ミオシン重鎖の発現は再生(増殖)の終了を示す指標となりうるものと考えられる。このことは、法医実務における損傷の診断(受傷後の経過時間の推定等)に脳胎児型ミオシン重鎖の発現が応用できることを示唆している。 以上の研究結果に基づき、次年度は、他の損傷、皮膚および筋組織の外傷(切創、刺創)、さらに心筋梗塞等をラットに作成し、それら損傷の治癒過程での脳胎児型ミオシン重鎖の発現を検討し一般化を試みる予定である。 尚、本研究結果の一部は第82次日本法医学会総会において発表する。
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