研究概要 |
タンパク質を直接標識できる新規4座β-ジケトン型蛍光ラベル剤,4,4´-bis(1″,1″,1″,2″,2″,3″,3″-heptafluoro-4″,6″-hexanedione-6″-yl)-chlorosulfo-ο-terphenly(BHHCT)を開発し,このユウロピウム(Eu)錯体を蛍光ラベル剤とした時間分解蛍光イムノアッセイによって,覚醒剤のメタンフェタミン(MA)を測定した.(Eu)BHHCT標識N-アミノブチルMA-BSAとMAを競合反応させる1ステップ法と,ビオチン化N-アミノブチルMA-BSAとMAを競合反応させた後,洗浄し,さらに(Eu)BHHCT標識ストレプトアビジンを反応させる2ステップ法で測定した.1ステップ法では標準MAの検出感度は約1ng/mlで,5ng/ml〜10μg/mlの濃度範囲で測定できた.2ステップ法では標準MAは1pg/mlから1μg/mlまで測定可能であり,今までの方法よりも10倍から1000倍高感度に検出できた.2つの方法の測定誤差は平均CVでそれぞれ3.04%(1ステップ),5.48%(2ステップ)であった.また,34検体の覚醒剤使用者の尿を用いて,1ステップ法とガスクロマトグラフィーによる測定結果を比較したところ,相関係数は0.954で高い相関が得られた. EuやSmのようなランタノイド金属は異なる蛍光発光波長とシャープな発光ピークを持つので,たがいに重なりあわず,蛍光寿命の長さも異なるという特長をもつ.このため,同じウエルに含まれるEu錯体とSm錯体をそれぞれ別に検出することが可能である.そこで,BHHCT-EuとBHHCT-Smの標識を用いて,2種類の物質を同時に測定することを試みた.3種の薬剤{メタンフェタミン(MA),抗うつ剤デシプラミン(DSP),抗精神病薬クロルプロマジン(CRP)}と,2種の癌マーカー{α-フェトプロテイン(AFP),癌胎児性抗原(CEA)}の測定を行った.薬剤の測定は競合法,癌マーカーの測定はサンドイッチ法を用いた時間分解蛍光イムノアッセイで行い,Euは615nm,Smは643nmにおける蛍光強度を測定した.DSP,CPZとMAの同時測定,およびAFPとCEAの同時測定を行った結果,それぞれの最小検出感度は,MA:1ng/ml,CPZ:10ng/ml,DSP:10ng/ml,AFP:0.07ng/ml,CEA:0.3ng/mlであった.また,これらの測定値は単独で測定したときと良く一致した.この方法は操作効率もよく,高い検出感度が得られるので,限られた試料に有効である.
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