熱射病及び脱水症の診断指標の検討に前後して比較的診断が容易な慢性アルコール中毒に関して既存の研究成果と対比すべく、最初にエタノールから生成される脂肪酸エステルについて検討を試みた。吸収されたエタノールと体内の脂肪酸が結合して生成されるパルミチン酸エチルエステルをはじめとした脂肪酸エチルエステルの心臓や脳内濃度は血中アルコール濃度ともある程度相関し、しかも慢性アルコール中毒者の判別にも参考になりうると考えられた。 次に脱水症について同様な指標の有無を検討したところ熱等により出現する熱ショック蛋白質(HSP)に注目し、まずHSPの局在を検討することとした。ラットを脱水群と対照群に分けて、脱水群は水分を摂取させず40時間放置、両群とも40時間後に腎を摘出しヘマトキシリン=エオジン(HE)染色とともに抗HSP-70、抗HSP-60、抗HSP-27を一次抗体としAvidin biotin complex(ABC)法にて免疫染色を試みた。その結果以下の事実が判明した。 (1) ヘマトキシ=エオジン(HE)染色による一般的形態変化 脱水群では対照群に比較して遠位尿細管あ水腫様変化と髄質の動脈のうつ血が強い傾向がみられた。 (2) 抗HSP抗体による免疫染色 脱水群の遠位尿細管HSP-27の比較的強い染色性を認めた。他のHSPおよび腎臓の他の部位では対照群と比較しても大きな差違はみられなかった。 今後の課題としてStreptavidin-Horseradish peroxidase(HRP)System等他の免疫染色方法によるより安定したHSP局在性の評価とELISA法などによりHSPの存在や定量を試みる必要があると思われた。また今回実施できなかった、実際の法医剖検事例においても応用可能か否かの検討も必要であると思われた。
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