精神分裂病などの神経障害は1つの原因として代謝異常障害が考えられるが、未だに生化学的に明らかにされていない。この分野の代表的な研究の1つとして、尿・血液中における生体活性物質の詳細分析が行われている。このような分析では制限条件下でヒトから試料を採取する必要があり、実際のところ困難である。一方、毛髪中には、薬物などの化学物質が濃縮されることが証明されてきており、毛髪分析により代謝異常障害に関する情報を得ることが期待でき、本研究の着想に至った。我々が、開発したへプタフルオロ-n-プチリル化抽出法により処理した試料の分析を行ってきて、昨年度までに、3つの化合物の検出が毛髪分析の特徴であることがわかってきており、その中で、特にチラミンの検出から何らかの意味が見つかるのではないかということで、本年度は、チラミンの分析を定量的に行った。まず、この分析法によるチラミンの定量性を調べ、内部標準物質に重水素標識4-ハイドロキシメタンフェタミン-d5を使うことにより、実務的に測定が可能になることがわかった。そして、剖検試料230例ほどを分析した。その内、力ダベリンなどが検出される腐敗の影響があったものは除外した残りの約30%は著明に高濃度を示し、その他は、極めて低濃度であった。チラミンが高濃度に検出された毛髪は、精神分裂病加療中の犠牲者や、喧嘩により傷害を受けた犠牲者、心臓機能障害による犠牲者のものが大半であった。これまでに得た結果からは、まだ例数も少ないので、大胆な推測しかできないが、興奮し易さとチラミンに関わる代謝障害に何らかの関連があるのではないかと思われ、今後も、データを収集していくことで、毛髪による化学診断の基礎を築くことができると考える。
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