代謝異常を伴う病気がある。しかし、診断の基礎となる資料は十分ではない。代謝異常の診断には化学分析が必要で、その試料には尿・血液が有用とされている。その検査は被験者に食事の制限などをする必要があり、実際上困難である。このような目的の分析は、剖検試料では殆ど不可能である。一方、薬物の継続的使用を調べる手段として、毛髪分析が検討されている。もし、同様に毛髪中に代謝異常物質が保持されるとすれば、慢性的疾患が毛髪分析により診断できると考える。分析法の選択、対象化合物の設定、定量的分析、毛髪分析、分析データ整理、そして考察を行うという順で研究を進めた。 1.分析方法には、ヘプタフルオロ-n-ブチリル化抽出法により処理した試料のガスクロマトグラフィー・質量分析法を用い、アミン、アルコール、アミノフェノール系の分析に重点をおいた。 2.毛髪分析の特徴を示すようにチラミンが時々検出されたので、これに焦点を合わせて研究を行った。 3.内部標準物質に4-ハイドロキシメタンフェタミン-d5を用いることにより、相関性の高い検量線を得ることができた。 4.230例ほどの剖検試料を集め、分析を行った。 5.チラミンの毛髪中の存在は、非常に低いか高いかに分かれた。腐敗の影響によるものを除外すると、180例ほどが有効試料となった。その内の約27%が高いチラミン濃度を示した。これは、普通に生活しているヒトの群に比べ、やや頻度が高かった。検出された群の事例内容を調べたところ、精神科治療を受けていた死体、心臓に疾患のあった死体、口論の結果の犠牲者の毛髪にかなり高頻度でチラミンの高レベルを観察した。 5の結果より、チラミンの異常な存在は、興奮しやすい気質に関連があるのではないかと思われた。今後の分析例数の積み重ねと基礎的研究により、疾病に対するチラミンの関わりが解明できるのではないかと期待する。
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