研究概要 |
黄色ブドウ球菌プロテインA(SPA)は、VH3ファミリーに属するイムノグロブリンVH遺伝子を使用したIgMに結合し、B細胞に対しスーパー抗原様に作用する。このような、ユニークなB細胞結合性を有するSPAの慢性炎症性疾患発症における役割を明らかにする目的で、慢性関節リウマチ(RA)患者より、炎症病態の主座である関節滑膜および末梢血についてB細胞のSPA反応性を検討した。RA患者関節滑膜より237個、末梢血より204個のIgM産生B細胞クローンを、EBウイルスによる不死化操作によって得た。さらに、健常人末梢血より、909個のIgM産生B細胞クローンを同様の操作によって得た。これらのB細胞クローン培養上清中のIgMについて、SPA結合活性を酵素抗体法を用いて検討した。その結果、RA滑膜由来の87個(36.7%)RA末梢血由来の108個(52.9%)がSPA結合IgMを産生しており、RA滑膜においてSPA結合IgM産生B細胞の割合は、末梢血に比して有意に低かった。一方健常人末梢血では、SPA結合IgM産生B細胞クローンは386個(42.5%)であり、RA末梢血の方がその割合は有意に高かった。我々は、既に、SPA結合IgMが、固相化SPAに対する反応性によって高親和性と低親和性の二つのグループに分けられ、親和性の違いは、IgM可変部に用いられるジャームラインVH3遺伝子の違いによることを明らかにしている(Hakoda,M.,et al.J.Immunol.1996,157:2976)。今回得られた培養上清につき、IgM濃度を測定後、SPA結合親和性について検討した。その結果、高親和性IgMの割合は、RA患者末梢血(47.2%)において健常人末梢血(39.0%)より有意に高く、RA患者末梢血におけるSPA結合IgM産生B細胞の増加は、高親和性IgM産生細胞の増加によると考えられた。高親和性IgMを細胞表面に有するB細胞の方が、SPAによってより強く刺激されると考えられ、このような結果は、RA患者においてSPAによるB細胞活性化が存在したことを示唆する。一方、RA滑膜においては、高親和性IgM産生B細胞の割合は、27.4%とRA末梢血、健常人末梢血に比べていずれもむしろ低くなっていた。RA滑膜において、SPAに対する親和性が低下するようなメカニズムにつて、現在SPA結合IgMのVH遺伝子について、塩基配列を決定中である。
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