MIF(Macrophage Migration Inhibitory Factor)は活性化T細胞から分泌されるリンフォ力インの一つである。しかし最近免疫担当細胞以外にも、脳下垂体前葉細胞、眼レンズ細胞、表皮細胞など様々な上皮細胞での発現が認められ、また癌化に伴ってその発現が増加するとの成績が得られつつある。胃においても、H.pylori感染によって惹起される慢性炎症に、MIFが深い関わりを持つことが予想され、また炎症から生ずる発癌の過程にも大きな役割を果たしている可能性がある。本研究の目的は、胃粘膜におけるH.pyloriの慢性感染が、萎縮性変化、腸上皮化生、発癌、リンパ腫の発生など多彩な変化を引き起こす過程において、MIFがどのように関わっているかを検討することである。 まず、正常ラット消化管におけるMIF mRNAおよびMIF蛋自の発現の検討から、MIFが食道から大腸まで消化管粘膜に広く発現していること、特に胃に強い発現がみられることが明らかとなった。一方、生理的壁細胞刺激物質であるガストリンは、一過性にMIF mRNAの発現を低下させた。これらの結果から、MIFが壁細胞の生理機能に重要な役割を果たしていることが推測された。ヒト正常胃粘膜では、ラット同様、壁細胞に強い染色を認めたが、H.pylori感染胃粘膜においては、浸潤リンパ球にもMIFの強い発現が認められた。以上より、H.pyloriの慢性感染が、MIFを介して胃の機能に様々な影響を与えている可能性が示唆された。 また、H.pylori感染者の血清MIF濃度を除菌前後で検討した。H.pylori感染者において、除菌前の血清MIF濃度は、健常コントロールよりも有意に低値を示したが、除菌後正常値に復するという興味深い結果を得た。その意義づけは今後の課題であるが、胃粘膜局所の慢性炎症が全身の免疫系に影響を与える可能性を示唆するものと思われる。
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