研究概要 |
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患は,現在のところ病因不明であるが,免疫学の進歩により病態の解明が進んできた.この病態を検討するために我々は,IL-12p40を腸管特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製し,このマウスを使ってデキストラン硫酸腸炎における免疫担当細胞やサイトカインの変化を解析することを目的とした.mouse IL-12p40cDNAを大腸,小腸を中心に発現するT3^b promoterでdriveするようなDNA constructを作製し,このDNAをBDF1マウスの受精卵にマイクロインジェクションすることにより,4系統のトランスジェニックマウスを得た(#9,#13,#20,#24).このうち,ノーザンブロットおよびRT-PCRで大腸での発現が高い2系統(#13,#20)を解析に用いるために,C57BL/6Jマウスと交配し繁殖させた.そして,約8週齢のトランスジェニックマウスおよびnegative littermateに対し,平均分子量約5万のデキストラン硫酸を1.5%で自由飲水させることにより腸炎の誘導を行なった.便の性状や体重変化などの臨床症状及びそのスコア化による評価を行なったが トランスジェニックマウスで若干の炎症抑制傾向を認めたが,統計学的有意差は認めなかった.また組織の炎症の肉眼的・顕微鏡的な観察を行なったが,これもトランスジェニックマウスおよびnegative littermateに明らかな差を認めなかった.両者に差を認めなかった原因としては,デキストラン硫酸の濃度が高く,誘導された炎症が強いために差がはっきりしなかった可能性,また,デキストラン硫酸の腸炎発症機序において免疫学的な炎症ではなく化学的な炎症が主体となっている可能性などが考えられる.今後は,デキストラン硫酸の濃度をさらに低い値で検討すること,またラットの実験腸炎として知られているTNBS(2,4.6-trinitrobenzen sulfonic acid)による腸炎導入を試みる予定である.
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