研究概要 |
肝内結石症は東南アジアに多発する難病である.本症における慢性増殖性胆管炎ならびにそれに関連した胆道上皮からのムチン過分泌は,肝内結石症の成因に重要な役割を演じていると考えられる.肝内結石症の胆管胆汁においては,アラキドン酸代謝の活性化により炎症の進展に重要な役割を演じていると考えられている分泌型低分子ホスホリパーゼA_2(PLA_2)であるIIA型PLA_2濃度が増加しており,結石存在部位の胆管ではIIA型に加えて,V型,X型PLA_2のmRNA発現量が著しく増加していた.さらにPLA_2受容体のmRNA発現も検出された.それらの発現増加に伴い胆汁中の総ムチン濃度ならびにリゾホスファチジルコリンも増加していた.胆汁中ムチンの分子種では硫酸ムチンならびにシアリル酸ムチンの酸性ムチンが特に増加していた.結石存在部位の胆管において,ムチン産生にかかわるムチンコア蛋白遺伝子では,分泌型ムチン分子であるMUC2,MUC3,MUC5AC,MUC5B,MUC6の発現が増加していた.またムチン分泌機構にかかわるCFTRの発現も増加していることが確認された.分泌型低分子PLA_2の発現増加による,慢性増殖性胆管炎に代表される慢性炎症は胆管上皮の細胞トランスフォメーションを促進し,酸性ムチンの発現増加をきたすムチンコア蛋白遺伝子の発現異常を生じさせている可能性が推測された.これらの変化は肝内胆管における結石形成の重要な成因と考えられた.
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