B型肝炎ウイルス(HBV)では困難であったprecore蛋白及びe抗原の機能解析をアヒルB型肝炎ウイルス(DHBV)を用いた動物実験により検討する目的で、DHBVの野生株とprecore変異株の増殖能の差異と病態との関連についてについて検討した。 DHBV野性株及びpoint mutagenesisにより作製したprecore産生株2種とprecore変異株4種の計6種のクローン化ウイルスDNAを感染源として孵化後1日目のアヒル雛計43羽にDNA transfectionによる感染実験を行い、14日目までの感染率、DHBV血清中のDHBV DNA量、肝内DHBV DNA、DHBV RNAを解析した。Precore産生株はいずれも100%の感染率を示したのに対し、precore変異株の感染率は55%であり、血清中のDHBV DNA量は明らかにprecore産生株より低値であった。等量のDHBV野性株とprecore変異株ウイルスを含む感染源を調整し、アヒル雛および初代肝細胞培養での感染実験を行い、増殖したウイルスをPCRで増幅し塩基配列を決定して増殖能の差異をで比較解析したところ、いずれの組合わせでもprecore産生株が検出され、肝細胞内precore蛋白あるいは分泌されたe抗原がウイルス増殖に促進的に作用していることが明らかとなった。さらに、一部のアヒルについて4週あるいは12週までの観察を行い、ウイルス量の推移とH-E染色による肝組織の検討を行った結果、野生株感染群では血清中ウイルスは持続陽性であったのに対し、precore変異株感染群の中に血清中ウイルスの消失と肝内リンパ球浸潤を認めるアヒルが存在し、precore変異株と病態との関連が示唆された。 本年度の研究より、ウイルス増殖に対するprecore蛋白あるいはe抗原の重要性ならびに肝炎とprecore変異株との関連が示唆され、動物モデルとしてのDHBVprecore変異株の有用性が認められた。
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