研究概要 |
我々は本年度の研究課題として肝細胞癌発癌過程におけるゲノム不安定性とテロメア長の変化の検討を掲げた。 1:ゲノム不安定性に関して 青柳らは現在までに10例の肝細胞癌(HCC)とその周辺非癌部(SL)、ならびに7例の非担癌慢性肝疾患肝組織(CI)に関して、予定していた18の蛍光標識マイクロサテライトマーカーを用いたマイクロサテライト不安定性とアレル不均衡の評価を行った。その結果HCCにおいては延べ180マーカー中35マーカー(19.4%)に異常が認められた。これに対しSL、CIではそれぞれ12.2%、3.2%に異常が認められた。全体として背景肝疾患の進行と発癌に伴いゲノム不安定性が蓄積されていることが確認された。今後は非慢性肝疾患肝組織(NCI)も含め症例数を増やし検討するとともに、HCCの生物学的悪性度とゲノム不安定生との関係を評価する予定である。 2:テロメア長変化に関して 本間らは現在までに8例のHCCとそのSL、12例のCIならびに4例のNCIに関して一定ゲノムに含まれるテロメア反復配列量を、同一個体の末梢血リンパ球を用いて個体間較差を補正した値(RTC)として定量化した。その結果RTCはNCIに比しCI+SL中で有意に減少していたのみ成らず(0.89±0.15(mean±SD,0.67-1.15)versus1.08±0.08(0.97-1.15),(P=0.04))、SLでCIに比し有意に減少していた(0.65±0.14(0.54-0.89)versus0.89±0.15(0.67-1.15),(P=0.008))。これに対しHCCにおいてはSLに対して一定の傾向を示さずばらつきが大きかった。RTCの測定は慢性肝疾患の進行程度を示しているものと考えられ、結果的に発癌のリスクを数値化しうる可能性が示された。今後HCCに関して内部コントロールで補正した相対テロメラーゼ活性(RTA)を定量し、RTCとの関係を検討する予定である。
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