研究概要 |
ラット自然発症慢性膵炎モデル(WBN/Kob)では12週令から慢性膵炎の変化が起こり,週令とともに顕著になった.RT-PCR法による膵組織中pancreatitis-associated protein(PAP)mRNAの発現動態の検討では,膵炎発症前の8週令から上昇し,12週令でピークに達し,24週令でほとんど消失した.PAPが膵線房細胞に発現することをmRNAレベルではin situ hybridization法,蛋白レベルでは免疫染色法により確認した.膵炎治療薬(メシル酸カモスタット,柴故桂枝湯)投与により,膵炎の発症と進展が抑制され,PAPmRNA発現も低下した.アポトーシスの検討では,膵内炎症細胞にアポトーシス陽性細胞が認められたが,膵線房細胞にはほとんど検出されなかった.膵線房培養細胞を用いたin vitroの系で,PAPのアポトーシス抑制作用を見い出し,現在さらに検討中である.臨床的には,196例の消化器疾患において血清PAP値をELISA法により測定したところ,その陽性率は急性膵炎で90%であり,膵炎の重症度を有意に関連し,その上昇は他の膵酵素に比し遷延し、急性膵炎の治癒に一致して正常化した.また,各種消化器癌での血清PAPの陽性率は,胃癌16%,大腸癌40%,肝細胞癌40%,胆道癌26%,膵癌40%であった.以上より,慢性膵炎の発症と進展にPAPの発現が関連し,その意義としてアポトーシス抑制作用が考えられた.また,血清PAP値が膵炎の重症度や治癒判定の指標になること,癌細胞での異所性発現を反映して消化器癌の一部でも血清PAP値が上昇することを明らかにした.
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