研究概要 |
私は、膵液中のK-ras変異の検索が膵癌診断に有用であることを報告してきたが、陽性率は80%を越えるものの、偽陽性もかなりみられ、癌特異性が問題となっている。最近、K-ras変異の定量化により癌特異性の向上が得られることを報告したが、p53分析を加えても陽性率は100%になるわけではなく、さらに特異性の高い遺伝子を分析の対象に加えることが望まれる。p16は、cyclin dependent kinase (CDK)インヒビターをコードする新しい癌抑制遺伝子として注目され、膵癌培養細胞株系では高頻度に不活性のみられることが報告されている。 そこで、まずヒト膵癌組織において免疫染色によりp16蛋白発現の欠失程度を検討した。手術ないしは剖検で得られた膵癌62例、嚢胞腺腫8例、慢性膵炎20例、正常膵6例のパラフィン包埋切片に対してp16モノクローナル抗体(G175-405)を用いた免疫染色の検討では、正常膵6例と慢性膵炎1例を除く19例ではp16蛋白の発現がみられた。一方、嚢胞腺腫で37.5%(3/8)、膵癌で41.9%(26/62)にp16蛋白発現の欠失がみられ、膵癌は慢性膵炎に比較してp16蛋白発現の欠失が有意に高率であった(p<0.01)。さらに、膵癌の組織学的分化度でも、中・低分化度(G2,G3)は高分化度(G1)に比してp16蛋白発現の欠失は有意に高率であった(p<0.01)。しかし、膵癌の年齢、性別、臨床病期、腫瘍局在部位、切除可能の有無に分けてp16蛋白発現の有無を比較しても有意差はみられなかった。但し、p16蛋白発現欠失群の方が発現群に比して、有意差は認められないものの、生存期間の短縮や多臓器転移を生じやすい傾向がみられた。 一方、免疫染色にてp16蛋白発現の低下した部位をmicrodissection法を用いて分離し、それよりDNAを抽出した。p16遺伝子のExon 1,Exon 2A,2B,2C,Exon 3に対応するプライマーを設定し、PCR-SSCPにてp16遺伝子レベルにおける欠失や突然変異の有無の頻度を現在検索中である。また、膵液についても、同様に臨床診断に有用か否かを検索中である。
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