研究概要 |
標的遺伝子を特異的に抑制しようとするantisense治療は、合理的であり興味深いものであるが、そのデリバリーや特異性の問題が残されている。抗腫瘍効果が報告されているc-raf mRNAに対するantisense oligoDNAを用いて、膵癌(HS766T)、肝癌(SK-HEP)に対する効果を検討した。キャリヤ-としてpoly-(lysine/serine) copolymer PEG誘導体(PLSP)とcationic lipopolyamine (Transfectam)を用い、またoligoDNAとしてはヌクレアーゼ感受性のphosphodiester(PO)体と耐性のphosphorothioate(PS)体を用い比較検討した。HS766T細胞を用いたin vitro実験で、用量依存性の検討よりoligoDNAの濃度をPLSPでは2μM,Transfectamでは0.5μMとした。2μMのantisense oligoDNA単独では、PO体PS体共に増殖抑制効果はみられなかった。Antisense oligoDNAの細胞増殖抑制効果は、PLSP、Transfectamいづれを用いてもPO体の方がPS体に比べてその効果が強く、特にPLSPではその傾向が強かった。(PLSPでは-43%と-17%で、Transfectamでは-55%と-40%;MTT法)。Transfectamを用いると、PO体PS体共に細胞増殖抑制効果はPLSPに比べて大きかったが、sense、mismatchのoligoDNAに比べてantisenseの特異性はより低くなった。RT-PCR法でc-rafのmRNAレベルをみると、PO、PS体共にantisense oligoDNAによりそのレベルの減少がみられたが、腫瘍増殖抑制効果でみると、むしろアンチセンス機序に依存しない非特異的効果の方が大きかった。以上の結果は、SK-HEP(肝癌)細胞を用いても同様であった。 SK-HEP細胞をヌードマウスの腹腔内に接種し腹膜播種モデルを作成し、in vivoでのc-raf mRNAに対するantisense oligoDNAの効果の検討を開始した。初期の段階の実験であるが、癌細胞を腹腔内接種後Transfectamをキャリアーとして6μMのantisense oligoDNAを週1度3回投与した。PO、PS体共に、腫瘍の結節形成の出現を同程度に抑制したが、PS体では、多発性の皮膚潰瘍を生じた。PO体では、皮膚潰瘍がわずかに見られるのみであった。ヌクレアーゼ感受性のantisenseの方が、むしろ毒性が低く臨床応用により適している可能性が示唆される。PLSPをキャリアーとした場合も含め、これからの重要な課題である。他の細胞周期に関するantisense oligoDNAは、c-rafに比べて極めて有効というものはこれまでのところなく、c-rafのantisense oligoDNAを用いたin vivoの実験を中心に今後進めて行く予定である。
|