研究概要 |
標的遺伝子を特異的に抑制しようとするantisense治療は、合理的であり興味深いものであるが、そのデリバリーや特異性に問題が残されている。これまでc-raf mRNAに対するantisense oligoDNAを用いて、膵癌(HS766T)、肝癌(SK-HEP)に対する抗腫瘍効果をin vitroで検討してきた(Anti proliferative effects of unmodified antisense oligodeoxynucleotides targeted against c-raf mRNA: use of poly-(lysine/serine) copolymers or cationic lipopolyamines. Clin Exp Pharmacol Physiol 25:702-705,1998)。そこで、in vivoにおける効果を検討した。 操作性よりSK-HEP細胞をヌードマウスの腹腔内に接種し、肝癌細胞の腹腔内播種モデルを作成した。OligoDNAとしてはヌクレアーゼ感受性のphosphodiester(PO)体と耐性のphosphorothioate(PS)体を用い、そのキャリアーとしてcationic lipopolyamine(Transfectam)を用いた。癌細胞の腹腔内接種後3週に3μgのoligoDNAを週2回計6回腹腔内投与し、腸間膜、肝門部の腫瘍結節の形成、肝転移の有無、癌性腹水の発生を観察すると、PO体のantisenseおよびmismatched oligoDNAが最も抗腫瘍効果が強く、in vitroでの効果とほぼ同様の結果が得られた。また、6μg antisense oligoDNAの週1回計3回の投与ではPS体で多発性の皮膚潰瘍を生じ、PO体の方がむしろ毒性が低く臨床応用により適している可能性が示唆された。 Antisense oligoDNAとTransfectamの複合体による抗腫瘍効果には、アンチセンス機序とは異なる非特異的効果がかなり含まれていることは明らかであるが、腫瘍選択性を持たせることで逆にその効果を利用可能である。今後腫瘍選択性の向上のため、標的遺伝子の選択、腫瘍指向性を持たせたキャリアーの開発などを検討してゆく予定である。
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