標的遺伝子を特異的に抑制しようとするantisense治療は、合理的であり興味深いものであるが、そのデリバリーや特異性に問題が残されている。本研究ではc-raf mRNAに対するantisense oligoDNA(ヌクレアーゼ感受性のphosphodiester(PO)体と耐性のphosphorothioate(PS)体)とそのキャリアーとしてpoly-(lysine/serine)copolymer PEG誘導体(PLSP)またはcationic lipopolyamine(Transfectam)を用いて、膵癌(HS766T)、肝癌(SK-HEP)に対する抗腫瘍効果をin vitroおよびin vivoで検討した。 OligoDNAの濃度としてPLSPでは2μM、Transfectamでは0.5μMでantisense oligoDNAの細胞増殖抑制効果をみると、両者とも何故かPO体の方がPS体に比べてその効果が強かった。RT-PCR法でc-rafのmRNAレベルをみると、PO、PS体共にantisense oligoDNAによりそのレベルの減少がみられたが、腫瘍増殖抑制効果はむしろアンチセンス機序に依存しない非特異的効果の方が大きかった。肝癌細胞をヌードマウスの腹腔内に接種した腹腔内播種モデルを作成し、腸間膜、肝門部の腫瘍結節の形成、肝転移の有無、癌性腹水の発生を観察した。癌細胞の腹腔内接種後3週に3μgのoligoDNAをTransfectamをキャリアーとして週2回計6回腹腔内投与すると、PO体のantisenseおよびmismatchのoligoDNAが最も抗腫瘍効果が強くin vitroでの効果とほぼ同様の結果が得られた。また、6μg antisense oligoDNAの週1回計3回の投与ではPO体で多発性の皮膚潰瘍を生じ、PO体の方がむしろ毒性が低く臨床応用により適している可能性が示唆された。 今後、腫瘍選択性の向上のため、標的遺伝子の選択、腫瘍指向性を持たせたキャリアーの開発などを検討してゆく予定である。
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