研究概要 |
炎症性腸疾患(IBD)、すなわち潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)の腸管粘膜における免疫担当細胞の活性化に関して、IL-2受容体γ鎖を共有する免疫調節性サイトカインであるIL-2,IL-7,IL-15のIBDにおける生物学的意義を明らかにするため、大腸生検粘膜組織の培養を行い、培養上清中の活性をELISA法を用いて測定した。培養上清中にIL-2はその活性を全く認めず、IL-7活性も一部の症例に検出できたのみで、疾患差はみられなかった。IL-15活性は、対照と比較して、活動期IBDにおいて高値を示し、非活動期でも、UCで活性の高値を認めた。in situ hybridizationと酵素抗体法を用いて腸管粘膜におけるIL-15のmRNAと蛋白の局在を解析すると、粘膜上皮細胞およびCD68陽性のマクロファージに発現がみられ、IBDでは対照に比べてIL-15の発現をより高度に認めた。リコンビナントIL-2,IL-7,IL-15の存在下に手術材料より分離した粘膜固有層単核細胞(LPMC)を96時間培養し、増殖能、細胞障害活性、サイト力イン(TNF-α,IFN-γ)産生を測定し、免疫調節性サイトカインであるIL-2,IL-7,IL-15のLPMCに対する作用を検討した。IL-15は、IL-7より高度に、LPMCの増殖および細胞障害活性を誘導し、その効果はIL-2とほぼ同程度であった。特にCDでは、IL-2,IL-15による細胞障害活性の亢進が著明で、対照およびUCに比べて有意に高値を示した。また、CDでLPMCの細胞障害活性が亢進している機序を明らかにするために、抗グランザイム抗体またはIgM型抗Fas抗体を用いて検討したところ、CDのLPMCの細胞障害活性は両者によって有意に抑制され、そのメカニズムとしてパーフォリン・グランザイムおよびFas/Fasリガンド系が関与していることが推測された。さらに、IL-15により、LPMCからTNF-αおよびIFN-γの産生が増加し、IL-2受容体α鎖の発現が増強した。以上の結果より、IL-15は同じ免疫調節性サイト力インであるIL-2およびIL-7に比較し、IBDの腸管局所における局在が明らかで、LPMCに対する増殖、細胞傷害活性、サイトカイン産生の促進作用を認め、IL-15がIBDにおける免疫担当細胞の活性化に関与する重要なサイトカインの一つであることが示された。
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