本年度は、補体活性化制御因子decay-accelerating factor(DAF)の腸管上皮細胞における発現の制御機構の基礎的検討を実施した。即ち、DAFの発現は、DAFのペプチド部位の発現とGPIアンカー部位の発現により規定されているが、これらの蛋白(DAF、GPIアンカー律速酵素 PIG-A)発現のサイトカイン制御について検討したところ、次のことが明かとなった。腸管上皮細胞CaCo-2やHT-29において、IL-4やTNF-αがDAFの発現を強く誘導したが、IL-4はDFAペプチドの発現は誘導するがPIG-Aの発現には影響をあたえない。しかしTNF-αはDAFペプチドおよびPIG-αの両者の発現を遺伝子レベルで強く誘導した。この結果は、GPIアンカー蛋白の発現制御機構の複雑性を示す初めての知見であり興味深い。おそらく、潰瘍性大腸炎病変粘膜において、DAFの発現は複雑の分子レベルの制御を受けているのと考えられる。今回得られた知見をもとに、本年度(平成10年度)に計画している臨床材料を用いた検討にすすみたい。 一方、DAF遺伝子欠損マウス(KO マウス)の作成を試みている。現在までにおDAF遺伝子の片方に変異を導入したES細胞を樹立し研究中である。ただ、基礎的検討の段階であるが、DAF遺伝子のKOは、致死的となる可能性があり、この点のさらなる検討が必要と考えられる。 GPIアンカー合成酵素PIG-Aに対するポリクローナル抗体の作成に成功しており、平成10年度では、蛋白レベルの解析がさらに可能となるものと考えられる。
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