腸管内には胆汁や膵液に由来する多量の補体成分が存在し、さらに腸管上皮細胞自身が補体を産生分泌している。これらの補体成分は細胞障害性を発揮するが、腸管上皮は補体制御蛋白を発現してこれらの細胞障害性から腸管上皮細胞を防御している。潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患の病因における補体制御蛋白の発現異常の関与について平成9年より検討してきた。まず、さまざまな補体制御蛋白の発現調節機構を探索するうち、食物線維の嫌気性発酵により産生される短鎖脂肪酸特に酪酸の効果について今年度は検討してきた。我々の検討によると、様々なサイトカインにより誘導される腸管上皮細胞からの補体成分の産生について、酪酸はあるものはその産生を増強しあるものは抑制してくれる。しかも、その制御機構には転写因子を介した調節機構が関与しており、さらにヒストン蛋白のアセチル化の関与が明らかになった。同様に、酪酸は、補体活性化制御蛋白の一つdecay-accelerating factor(DAF)の発現も抑制的に制御していることが明らかになった。すなわち、嫌気性発酵により誘導される酪酸は、補体成分および補体制御蛋白の発現をさまざまに調節することにより補体が関与した腸管局所における炎症反応の調節作用を持つと考えられる。本年度は、おもに酪酸の効果を検討するとともに、この3年間の結果をまとめ論文としてまとめ報告した。
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