慢性肝疾患で血清および肝組織中の細胞外マトリックス分解酵素を検討し下記の成績を得ている。 1. 血清MMP-1濃度は慢性肝疾患の進展とともに減少した。また、活性型MMP-1を反映するMMP-1/TIMP-1 complexも同様に減少した。血清MMP-1は組織学的肝の壊死炎症の程度と密接に関連しており、臨床的には活動性と非活動性肝炎の鑑別に有用であった。なお、肝組織中のMMP-1濃度は感度以下で検出できなかった。 2. 血清MMP-2濃度は、慢性肝炎では健常者と変わらなかったが、肝硬変および肝癌では著明な高値を示した。肝癌での血清MMP-2は肝硬変と差がなく、更に肝癌の治療前後で差を認めなかったことより、肝癌での上昇は基礎肝病変の肝硬変に由来するものと思われた。肝組織中のMMP-2濃度は肝コラーゲン量と密接に関連して増加し、血清MMP-2の上昇が病変肝由来であることが示唆された。臨床的には血清MMP-2は慢性肝炎と肝硬変との鑑別に極めて有用であった。コラーゲンザイモグラムでは血清中のMMP-2の大部分はproMMP-2であった。更にSephadexカラムクロマトではMMP-2は分子量90kDaに描出され、血清中ではproMMP-2/TIMP-2として存在していることが示された。なお、正常肝ではproと活性型MMP-2が同程度に存在したが、硬変肝ではproMMP-2の増加が著明であった。 3. 血清MMP-3濃度には性差があり男性で女性に比べて約2倍高い値を示した。男性の場合、慢性肝疾患で血清MMP-3は著明に減少し、減少率は慢性肝炎minimalで-54%、mildで-55%、moderateで-61%、肝硬変で-53%、肝癌-46%であった。各病型間では有意な差は認められなかった。血清MMP-3は肝の組織学的壊死炎症、線維化と関連が認められなかった。肝組織中のMMP-3は非硬変肝(128±49ng/g肝)と硬変肝(134±35ng/g肝)で変わらなかった。血清のカラムクロマトでは分子量60kDaに大きなピークと25kDaに小さなピークを認め、分子量より前者がproMMP-3、後者が活性型MMP-3と考えられた。慢性肝疾患での減少は肝組織中のMMP-3の変動、肝病変の程度、肝組織所見と関連がなく、臨床的有用性は少ないが、肝線維化病態を考える上で興味ある成績と考えている。
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