研究概要 |
自己免疫性肝炎は,その発症機序に自己免疫機序の関与が想定されている慢性活動性肝炎である。自己免疫機序の病態として免疫調節機能の異常,特に免疫抑制機能の低下が想定されているが,その病態についてはなお不明な点が多い。最近,自己反応性リンパ球あるいは抗原刺激によって活性化されたリンパ球はアポトーシスによって排除され,それによって過剰な免疫・炎症反応がコントロールされていることが報告されている。アポトーシスには細胞死を誘導するCD95(Fas/APO-1),あるいはその過程を阻止するBcl-2が関与する。自己免疫性肝炎患者におけるリンパ球の活性化の状態を検討するために,末梢血単核球におけるCD95,Bcl-2の発現について検討した。自己免疫性肝炎ではCD4^+T細胞,CD8^+T細胞分画にCD95陽性細胞の比率が増大していた。さらにCD95はCD45RO陽性memory T細胞に発現されており,自己免疫性肝炎患者ではCD95^+CD45RO^+T細胞が増加していた。これらのことから自己免疫性肝炎ではリンパ球はそのほとんどが活性化されており,しかもCD95が発現されているにもかかわらず活性化が持続した状態で存在していることが示唆された。一方,transforming growth growth-β(TGF-β)は免疫担当細胞に作用し強力な抑制性サイトカインとして作用することも知られている。自己免疫性肝炎の病態と抑制性サイトカインとしてのTGF-βとの関連を検討するために,自己免疫性肝炎患者の血清中TGF-βを測定し,さらに末梢血単核球におけるTGF-β receptor typeII(TβRII)の発現について検討した。自己免疫性肝炎患者血清中TGF-β濃度はC型慢性肝炎患者,健常者に比較して高値であった。しかし,末梢血単核球におけるTβRIIの発現は、C型慢性肝炎患者あるいは健常者に比較して低値であった。すなわち,自己免疫性肝炎患者ではTβRII発現低下によって,抑制性サイトカインであるTGF-βに対する反応性が低下し,免疫反応抑制機序の低下に関連していることが示唆された。
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