生体の実質臓器に共通する代表的病態は炎症」と「線維化」である。肝臓も例外ではなく、慢性肝炎とこれに伴う肝線維化やアルコール性肝線維症、先天性肝線維症などがこれに相当する。その確定診断や進展の程度の評価に肝生検が有用であることからも分かるように基本的には「炎症」や「繊維化」は病理形態学約な概念である。肝臓でこのような線維化を惹起する細胞は主に筋線維芽細胞様に形質転換した伊東細胞である。近年の肝臓潅流方法の進展に伴いラット肝より99%以上の純度の伊東細胞の分離精製が可能となり、その形質転換過程をin vitroで再現することが可能となったので、今回、我々は伊東細胞を正常肝および肝硬変の剖検肝より分離し、differential display法により肝硬変への進展に伴い発現の増強するmRNAの分離を試みた。 従来、この過程における蛋白あるいは遺伝子発現の変化はコラーゲンなど変動が予知できるものに限られてきた。今回我々が用いた方法により増強が明らかとなった遺伝子も、伊東細胞のトランスフォームに伴うc-mycなど増殖に関連する遺伝子群と、肝臓の線維化の進展に関与することがすでに知られているコラーゲンなどで、その発現の増強が予知できるものがほとんどであり、従来の知見を支持する成績であった。 既知の遺伝子のうち、新たにmRNAの発現の増強が確認されたものはcationic amino acid transporterで、次年度はその機能につき検討を行う予定である。
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