原発性胆汁性肝硬変(PBC)の病因論では胆管上皮に対する免疫反応の解析が重要であるが、胆管傷害の本態は依然として不明である。PBCでは胆管周囲や末梢血中に好酸球増多が観察されることが以前より報告されており、活性化好酸球の有するcytotoxic mediatorであるmajor basic protein(MBP)の強い沈着がPBC肝臓の胆管周囲に証明されている。また好酸球の分化活性化を促すIL5mRNAレベルはPBC肝で特異的に高い。MBPは上皮細胞の剥離や細胞障害を惹起させることが知られており、PBCの胆管傷害に活性化好酸球も重要な役割を演じている可能性がある。 まずIL5 transgenic mouse(IL5-Tg)を用い好酸球による胆管傷害実験プロトコールを検討した。IL5-Tg(C3H/He)はIL5の産生により末梢血好酸球は30-50%に及ぶが、肝門脈域への浸潤は軽度で胆管破壊像はない。IL5-TgとMHCの一部が異なるB10A.4RとのF1(末梢好酸球20%)を作製した。このF1に正常C3H/Heの脾細胞2×10^7個を静脈投与し、GVHDにもとずく門脈域炎症の誘導を試みた。肝への強い好酸球浸潤と小葉間胆管の変性、破壊を呈する例を20匹中1例で認めたが、再現性に乏しかった。次に実験的肝障害モデルに多用されるLPS(lipopoly sacchari de)に注目し、LPS少量(25ug)投与にて胆管傷害惹起実験を行った。LPSを腹腔内投与し経時的に観察したところ、対照としたnon-transgenic C3H/Heでは全く変化は見られないが、IL5一Tgでは投与2週後で10匹中全例で著明な好酸球浸潤を肝細織中に認めた。肝細胞の激しい壊死をみると同時に胆管上皮の変性壊死所見も観察されPBC類似の所見が得られた。電顕観察では傷害胆管上皮細胞に活性化好酸球が隣接し、脱顆粒の像が観察された。肺、腎、心、筋、胃、腸、胸腺、唾液腺などの全身臓器も検索したが肝臓以外では好酸球の浸潤や組織傷害は全く観察されなかった。LPSが投与されたIL5-Tgの脾細胞2×10^7個(好酸球40%)をnon-transgenic C3H/Heに尾静脈より投与し肝障害の有無を検討したが、組織学は全く異常を認めなかった。現在、LPS投与IL5-Tgマウスにおけるサイトカイン、ケモカインの血中、肝組織中の動態を測定中であるが、恐らくLPS処理の中心である肝クッパー細胞が重要な役割を果たしている可能性が高い。
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