研究概要 |
α-Fetoprotein(AFP)遺伝子は肝細胞の癌化に伴い再発現することが知られている。本研究では、このAFP遺伝子の5′上流転写調節領域を用い、肝癌細胞に対する遺伝子治療の基礎実験を行った。これまでのin vitroでの検討から、AFP遺伝子プロモーター0.3Kbの制御下においた自殺遺伝子:単純ヘルペスウィルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を挿入した組換えレトロウィルス(LNAF0.3TK)をヒト肝癌培養細胞に導入しガンシクロビル(GCV)投与すると、AFP産生量に応じて腫瘍細胞の殺傷効果が得られることが明らかとなっている。そこで(LNAF0.3TK)を導入したAFP高産生肝癌培養細胞(HuH-7)をヌードマウス皮下に移植し、腫瘍形成後、腹腔内にガンシクロビル(GCV)投与したところ、腫瘍は退縮し、in vivoに於いても良好な抗腫瘍効果が得らことが明らかとなった。さらに、AFP低産生肝癌培養細胞に対する抗腫瘍効果を高めるために、AFP遺伝子プロモーター0.3KbにAFP遺伝子エンハンサー・ドメインB領域を結合させた組換えレトロウイルス(LNAF0.3E+TK)を作成した。このウイルスをAFP低産生肝癌培養細胞(PLC/PRF5,huH-1)に導入しガンシクロビル(GCV)投与すると、in vitro、in vivoに於いてLNAF0.3TK導入時よりも強い抗腫瘍効果が得られた。一方、先天性AFP血症では、AFP遺伝子プロモーター領域に点変異が生じていることが報告されている。そこで変異型AFP遺伝子プロモーター0.3kbを含む組換えレトロウイルス(LNAF0.3MTK)を作成し同様の検討を行ったところ、(LNAF0.3TK)に比べより強い抗腫瘍効果、バイスタンダー効果を示した。以上の結果から、種々のAFP遺伝子転写調節領域を用いることで、AFP産生量の少ない肝細胞癌の遺伝子治療も可能となることが明らかとなった。
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