アルファーフェトプロテイン(AFP)とアルブミン遺伝子は同一の遺伝子から派生したと考えられており、ヒトでは第4染色体上に並立して存在する。AFP遺伝子の発現が生後急速に低下するのに対し、アルブミンの発現は維持される。AFP遺伝子においては、5′上流約3kbに強いエンハンサー活性を有する領域が存在し、さらにAFPプロモーター領域とエンハンサー領域の間にはサイレンサー領域存在することが推定されている。そして、生後のAFP遺伝子発現の低下は主としてサイレンサー領域の活性化に起因し、肝癌細胞におけるAFPの再発現はこの領域の不活化に関連していると考えられる。これまでの我々の研究から、このサイレンサー活性はAFPエンハンサー領域に対して位置依存性にその活性を抑制することが明らかになった。また、サイレンサー活性が失われた状況では、AFPのエンハンサー領域はAFPのみならずアルブミンのプロモーター活性も制御していると考えられた。一方、サイレンサー活性を有する肝癌培養細胞を用いた系では、エンハンサー活性の変化はアルブミン遺伝子の発現に影響を及ぼさないことが明らかになった。これは、AFPのエンハンサー領域がAFPあるいはアルブミンのプロモーター領域とループを形成し、両遺伝子の発現を制御していること、さらにサイレンサー活性はこのようなループ形成を制御することにより作用することを推測させる。この際、RB遺伝子の導入は間接的にサイレンサー活性を亢進させると考えられた。現在、このようなサイレンサー活性の発現に関与する転写因子として、AT-rich sequenceに結合能を持ち、ループ形成能を有するhigh mobility group(HMG)蛋白、特に肝癌で発現がみられるHMGI-Cが候補として挙げられ、現在、サイレンサー活性との関連を検討している。
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