研究概要 |
アルコール性肝障害における肝腺維化は、その予後を決定する重要な因子の一つであり、その特徴としては、組織の炎症や細胞壊死を伴わずにperisinusoidalあるいはpericellularといったpatternで線維化が出現することが知られる。したがって、アルコールによる肝線維化の誘導には、ウイルス性肝硬変などの場合とは異なり、炎症以外の機構が働いているものと推定されるが、その成因は不明である。最近、我々は、ヒト肝芽種由来HepG2細胞をエタノール存在下に培養すると、その培養上清中に線維芽細胞のコラーゲン合成を促進する分子量約6,000-8,000ダルトンのポリペプチドが出現することを見い出した。そこで本研究では、まず、本因子のcharacterizationを検討するとともに、同定を試みた。また、アルコール性肝線維症患者の血清中の本因子濃度を測定して、アルコール性肝線維化における本因子の関与の可能性について検討した。その結果、エタノールで処理したHepG2細胞の培養上清は18時間の処理で線維芽細胞の増殖を1.3倍に増加させたが、コラーゲン合成を2倍以上に増加させた。このことから、この因子には線維細胞の増殖を刺激する他にコラーゲン合成を積極的に刺激する活性があることが示唆された。次に、本因子の分子量が約6,000〜8,000ダルトンであったことから、それに分子量が近似する既知の各種サイトカイン・増殖因子に対する抗体を用いて活性中和試験をおこなった結果、本因子がTGF-αであることを同定した。さらにエタノール存在下で培養したHepG2細胞では、上清中のTGF-α濃度が経時的しかもエタノール濃度依存性に増加することを確認した。また、各種肝疾患患者の血清中TGF-α濃度を測定したところ、アルコール性肝線維症ならびに肝硬変患者では健常者ないしウイルス性肝硬変患者に較べて、有意に増加していることが判明した。本年度の研究成果から、アルコールに暴露された肝細胞からTGF-α産生が亢進し、それが線維化誘導因子として作用しコラーゲン産生を亢進させるという機序がin vivoにおいても働いている可能性が示唆された。
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