アルコール性肝障害における肝線維化は、その予後を決定する重要な因子の一つであり、その特徴は、組織の炎症や細胞壊死を伴わずにperisinusoidalあるいはpericellularといったpatternで線維化が出現することが知られる。したがって、アルコールによる肝線維化の誘導には、ウイルス性肝硬変などの場合とは異なり、炎症以外の機構が働いているものと推定されるが、その成因は不明である。昨年度の研究において、我々は、ヒト肝芽腫由来HepG2細胞をエタノール存在下に培養すると、その培養上清中に線維芽細胞のコラーゲン合成を促進する因子の同定を試みた結果、それがTGF-αであることを同定した。本年度は、アルコール性肝線維症患者の血清中のTGF-α濃度を測定し、アルコール性肝線維化における本因子の関与について検討した。また、ラット初代培養伊東細胞を用いて、TGF-αのコラーゲン合成に及ぼす効果を検討した。各種肝疾患患者の血清中TGF-α-濃度は、アルコール性肝線維症ならびにアルコール性肝硬変患者では健常者ないしウイルス性肝硬変患者に較べて、有意に増加していることが判明した。また、エタノールに暴露されたHepG2細胞ではTGF-αmRNAおよび蛋白発現が約5倍に上昇することが明らかとなった。さらに、TGF-α処理した伊東細胞では、typeIコラーゲンmRNA発現が増加することが確認された。これらの検討結果から、アルコール性肝線維化の発生機序として、エタノールに暴露された肝細胞のTGF-α合成が促進され、それがパラクリン作用で近傍の伊東細胞を活性化しコラーゲン産生を亢進させるメカニズムがあると考えられた。
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