研究概要 |
本年度は我々の施設において経験された劇症肝炎の症例を対象に研究を行った.開院以来11年間に入院となった劇症肝炎は20症例で、ABC型肝炎ウイルスマーカー(IgManti-HAV,HBs,IgManti-HBs,HCV II,HCV-RNA)がいずれも陰性症例は9例であったが、そのうち血清保存のある7例(自己免疫性疑い2例、薬剤性疑い3例を含む)を対象とした。これらは全症例とも経過を通してB型肝炎ウイルス(HBV)マーカーは全て陰性であった。これら症例の保存血清を用いて、〓aら、しUshiの報告などに基づき、プレコア、X、Sの各領域の増幅が可能なブライマーの対を作製し、nested polymrase chain reaction(PCR)法によりHBV-DNA断片の増幅を試みた。また、直接塩基配列決定法によりこれらPCR増幅産物のシーケンス解析を行った。PCR法によるHBVゲノムの検索の結果、ブレコア領域の増幅により、対象の7例のうち自己免疫性疑いの1例を除く他の6例において、対照のB型急性肝炎と同サイズのハンドが得られた。次に、直接塩基配列決定法によりこれらPCR増幅産物のシーケンス解析を行い、HBVゲノムの配列を有することが確かめられた。対照と比べ1例では全塩基配列の一致がみられ、他の5例も各々1〜3ヵ所のみの変異であったが、B型劇症肝炎症例において認められたと同様に、4例で28番目コドンのスットブコドン(TAG)へと変異していることが明らかとなった。一方、S領域のプライマーではHBV-DNAの増幅はみられなかったが、X領域のブライマーにてプレコア領域での増幅がみられた全症例の6例においてHBV-DNAの増幅がみられた。これらX領域の増幅されたバンドのサイズは、対象としたHBVキャリア症例と比べると、大小不同で複数みられる例もあり、HBVゲノムの欠損、重複などの変化と多様性が示唆されるが、現在シーケンス解析を行い検討中である。
|