昨年度までに非A-E型の急性肝炎と劇症肝炎の各6症例の保存血清を用いた検討において、B型肝炎ウイルス(HBV)ゲノムのプレコア領域のプライマーを用いたnested polymerase chain reaction(PCR)法により増幅がみられ、シーケンス解析にてHBVゲノムの塩基配列が確認されていた。また、劇症肝炎の6症例においてX領域のプライマーによっても増幅がみられていたが、シーケンス解析を行った結果、ヒト由来のDNAであることが判明した。さらに、劇症肝炎の3症例においてプレS2領域のプライマーにより増幅がみられ、シーケンス解析により同領域の塩基配列が確認された。そこで、塩基配列が明らかにされたプレコアとプレS2の両領域を足がかりにして、既知のHBVゲノムの塩基配列を参考に順次プライマーを設定し、外側に向かってPCRをすすめるprimer walking法により未知の領域の塩基配列の解析を試みた。しかし、現在までのところ期待された結果は得られていない。一方、対照として解析をすすめてきた我々の施設において経験されたB型急性肝炎の16症例(通常経過群8例、重症肝炎群4例、劇症肝炎群4例)の保存血清について、重症化、劇症化の機序解明のため、昨年度までにシーケンス解析により塩基配列が確認されていたプレコア領域に加え、コアプロモーター、コアの両領域についてもシーケンス解析を行った。その結果、劇症肝炎群において従来より知られていたプレコア領域の28番目コドンの停止コドンの変異が、コアプロモーターやコア領域の変異に比べ、高率にみられることが明らかとなった。また、コア領域のアミド酸レベルでの変異は重症度に比例して変異数の増加がみられたが、細胞障害性T細胞のターゲットとされる領域に変異が集中する傾向は認められなかった。
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