我々の施設において経験された原因不明の急性肝炎のウイルスマーカーが全て陰性で、非A-E型肝炎と診断された10症例(うち劇症化2例)を対象とした。これら症例は経過を通してB型肝炎ウイルス(HBV)マーカーは全て陰性であった。これらの保存血清を用いて、G型肝炎ウイルス(HGV)について、HGVゲノムの5^1非翻訳領域とヘリカーゼ領域に各々プライマーの対を作製し、RT-PCR法にてHGV-RNAの検出を試みたが、全症例において増幅はみられなかった。次に、B型肝炎ウイルス(HBV)について、プレコア、S、Xの各領域の増幅が可能なプライマーの対を作製し、nested PCR法によりHBV-DNAの増幅を試みた。その結果、プレコア領域のプライマーにて、2例の劇症化例を含む8例においてDNAの増幅がみられた。さらに、非A-E型と診断された劇症肝炎5症例を対象に追加して検討した結果、同様にプレコア領域のプライマーにて、4例においてDNAの増幅がみられた。次に、直接塩基配列決定法によりこれらPCR増幅産物のシーケンス解析を行い、HBVゲノムの配列を有することが確かめられ、劇症化6例のうち4例で、B型劇症肝炎症例において認められたと同様、プレコア領域の28番目のコドンが停止コドンへと変異していることが明らかになった。一方、X領域ではHBV-DNAの増幅はみられなかったが、劇症化例のうち3例においてプレS2領域のプライマーで増幅がみられ、シーケンス解析により同領域の塩基配列が確認された。そこで、塩基配列が明らかにされたプレコアとプレS2の両領域足がかりにして、既知のHBVゲノムの塩基配列を参考に順次プライマーを設定し、primer walking法により未知の領域の塩基配列の解析を試みた。しかし、現在までのところ期待された結果は得られておらず、サイレントB型肝炎における抗体測定系の確立は至らなかった。
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