本研究の目的は致死的喘息発作の詳細な発症メカニズムを解明すること、特に「喘息発作中に於ける体動の増加やβ2刺激剤吸入が呼吸停止や意識消失のトリガーであることを示すと共に、呼吸困難感及び低酸素換気反応の低下は致死的喘息発作の重要な危険因子である」という仮説を検討することである。 本研究に於ける主要な研究成果は次のごとくである。 (1) 過去に喘息発作により人工換気を施行された経験を有する患者(Near-fatal asthma患者)に直接インタビューし、意識消失までの詳しい行動を調査した。Near-fatal asthma患者は同様の意識消失を伴う発作を繰り返していることが多く、28名の患者で41回のNear-fatalエピソードが認められた。このうち68%のエピソードでは意識消失直前に歩行などの体動増加を含め、17%ではβ刺激剤吸入などを行っており、体動増加ないしはβ刺激剤吸入が、意識消失の直接的トリガーになっている可能性が示された。 (2) 喘息発作中の患者の体動及びβ刺激剤吸入と酸素飽和度低下との関係では、発作時の気道閉塞の程度が重症な程、体動時の低酸素血症は重症となりまた回復までの時間を要した。又、ネブライザーにてβ刺激剤吸入中の酸素飽和度低下も、気道閉塞の程度が重症な程重症となりまた回復までの時間を要した。これに対して、慢性の気道閉塞では急性期同程度の気道閉塞で酸素飽和度低下は軽度であった。 (3) 健常人にDoxapramを投与すると、低酸素換気反応が増加すると共に、抵抗負荷時の呼吸困難も増加した。このことはDoxapramがNear-fatal asthma患者の有する危険因子、即ち、低酸素換気応答および呼吸困難感受性低下の両者を改善する可能性を示しており、喘息死防止のための薬剤として使用できる可能性が考えられた。
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