[背景]びまん性汎細気管支炎に対するマクロライド系抗生物質(MC)の少量長期投与の有効性が報告されている。その作用機序は従来の抗菌作用のみでは説明できず、MCの持つ抗炎症作用が注目されている。その一つとして、MCによる気道上皮細胞のIL-8遺伝子発現の抑制が報告されているが、その細胞内抑制機序についてはまだ十分に解明されていない。本研究では気道上皮細胞におけるMCによるIL-8遺伝子発現調節メカニズムについて検討した。[方法]培養気道上皮細胞(BET-1A)をエリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)添加培地で前培養した後、腫瘍壊死因子(TNF)で刺激し、IL-8遺伝子発現レベルに及ぼすMCの影響についてノーザン法で評価した。BET-1Aの細胞増殖に及ぼすCAMの影響についてアラマブルー法で検討した。IL-8蛋白産生に及ぼすCAMの影響を評価するため、培養上清中のIL-8をELISAで測定した。また、アクチノマイシンD添加により細胞内IL-8mRNAの安定性に及ぼすCAMの影響について検討した。ルシフェラーゼ法およびゲルシフト法(EMSA)により、IL-8遺伝子転写調節に及ぼすCAMの影響について評価した。[結果]BET-1A細胞において、TNF刺激によりIL-8mRNAの発現が誘導された。その発現レベルは、EMおよびCAMにより抑制された。CAMはBET-1A細胞の増殖に対して影響を与えなかった。CAMはTNF刺激により誘導されたIL-8mRNA発現レベルを濃度依存性、前投与時間依存性に抑制した。同様に、蛋白レベルでもCAMはBET-1A細胞からのIL-8産生を抑制した。TNF刺激により誘導されたIL-8mRNAの安定性はCAM前投与の有無に関わらず変化しなかった。IL-8遺伝子5'-末端領域を種々の転写因子結合部位を含む長さに切断し、その3'-末端にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだプラスミドを作成した。これらのプラスミドをBET-1A細胞に遺伝子導入して、各々のルシフェラーゼ活性を測定した。AP-1およびNF-kB結合部位を含むプラスミドにおいて、TNF刺激によりIL-8遺伝子転写活性が増加した。CAMの前投与はAP-1結合部位を含むプラスミドにおいて、TNF刺激によるIL-8遺伝子転写活性の増加を抑制した。EMSAによる検討では、TNF刺激によりAP-1およびNF-kB核蛋白の結合能が誘導された。CAM前投与は、このAP-1結合能を抑制したが、NF-kB結合能を変化させなかった。
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