(1)CEA産生肺癌に対する特異的遺伝子治療 従来のCEAプロモーター下にHSV-tk遺伝子を発現する非増殖型アデノウイルスベクター(Ad.CEA-TK)はin vivoで十分な治療効果を誘導できなかった。これは、プロモーターの活性が低く十分なHSV一tk遺伝子の発現が得られないためであると考えられた。我々は、HSV-tk遺伝子の特異的強発現およびGCV感受性の増強を得るため、Cre/loxPシステムを応用した。CEAプロモーター下にCreリコンビナーゼを特異的に発現するAd.CEA-CreとCreの作用により初めて強力なCAGプロモーターからのHSV一tk遺伝子の強発現が可能になるAd.CAG-loxP-TKを作製した。Ad.CEA-CreとAd.CAG-loxP-TKの二重感染は、CEA産生癌株のin vitroでのGCV感受性を、Ad.CEA-TK単独感染時の8.4倍増強した。しかも、CEA非産生癌株のGCV感受性には有意な変化はなかった。次に、ヌードマウスの皮下に移植したCEA産生癌は、この二重感染後のGCV投与により7匹中6匹のマウスで完全退縮した。しかし、Ad.CEA-TK単独感染法では腫瘍の増大速度が少し抑制されるにとどまった。以上、Cre/loxPシステムを用いたアデノウイルス二重感染法の有効性が証明された(現在投稿中)。現在、人の癌性胸膜炎を想定した癌性腹膜炎モデルでの治療実験を行っている。 (2)Myc高発現小細胞肺癌に対する特異的遺伝子治療 Myc蛋白の結合配列をHSV-tkプロモーター上流に連結し、Myc高発現小細胞肺癌に特異的にHSV-tk遺伝子を発現するアデノウイルスベクター(Ad.Myc-TK)を作成した。Myc高発現小細胞肺癌株をヌードマウスの腹腔内に接種し、Ad.Myc-TK感染後GCVで治療後、腹腔内腫瘍重量を測定した。Ad.Myc-TK/GCV治療群では、対照群に比して、腫瘍重量は14分の1と有意に少なく、また8匹中2匹のマウスで腫瘍は完全に退縮していた。
|