従来、安定した肺感染実験系の少なかったS.aureusとくにMRSA感染症の新しい実験モデルを開発し、その病原因子、ならびに新しい抗菌薬の評価を行った。方法としてはAgarnobel(DIFCO)に菌を封入し、マウスに尾静脈より接種し、感染性梗塞を肺に作成する。感染菌株として臨床分離株S.aureusや標準株のメチシリン感受性S.aureus(MSSA)やMRSAを用いた。肺感染症におけるS.aureusの病原因子の関わりは未だ不明な点が多かったが、私たちの実験の結果、肺内増殖病原因子としてはコアグラーゼが、また、αヘモリジンが肺の組織破壊のうちでも空洞形成に関与していることが病原因子解析と遺伝子変異株の解析によって判明した。γヘモリジンはマウスの好中球を破壊する、ロイコトキシンであるが、γヘモリジン産生株は菌体周囲の組織壊死に関与すると言うことが病原因子解析から導かれているため、欠損株を用いた実験や、抗体によるブロック実験を進めている。 新しい抗菌薬の評価としてエバニノマイシンのin vivoにおける治療実験を行い、MRSAにバンコマイシンやテイコプラニン以上の治療成績が得られることが証明された。しかもエバニノマイシンはバンコマイシンに比べ感染後時間をおいても有効であり、薬物動態の相違が示唆された。これらの結果から、抗菌薬が効きにくい耐性菌の治療としての病原因子をターゲットとする治療や、新しい抗菌薬の治療に結びつく可能性が高い。
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