研究概要 |
この3年間高濃度酸素暴露によって作成した急性肺損傷においてCO_2、H^+に対する肺微小循環動態の異常を観察し、それを惹起する機序の解明を目指した。本研究を遂行するにあたり、肺微小血管(細動脈、細静脈、毛細血管)の微細な径変化を観察するために実時間作動型共焦点レーザー顕微鏡を開発した。この測定システムを用いて21%酸素環境下で飼育した対照群(N群)と高濃度酸素環境下で飼育した損傷肺を有する群(H群)を対象としてhypercapnic acidosis(HA)ならびにisocapnic acidosis(IA)を負荷した場合に肺細葉内微少血管が如何なる動態を示すかについて解析した。HA,IAの血管収縮・拡張に及ぼすプロスタグランジンならびに一酸化窒素(NO)の関与を明らかにするため構造型ならびに誘導型シクロオキシゲナーゼ(COX-1,COX-2)の阻害剤であるインドメサシン(IN群)、誘導型COX-2の特異的阻害剤であるNS-398(NS群)、構造型ならびに誘導型NO合成酵素(ecNOS,iNOS)の阻害剤であるL-NAME(LN群)、iNOSの特異的阻害剤であるアミノグアニジン(AM群)を用いた。同時に環流液中のNO濃度、プロスタサイクリン(PGI_2)濃度を測定した。さらに、各酵素の肺組織での発現をウェスタン・ブロット法で解析した。【結果】HA負荷時にはN群で認められた細静脈拡張がH群において消失した。しかしながらLN投与によってH群の細静脈拡張が予想とは逆に回復した。LN投与下のHA条件下ではH群の細動脈も拡張した。以上の反応はAM投与によっては発生しなかったが、IN投与によって消失した。しかしながら、これらの反応はNS投与によっては修飾を受けなかった。HA条件で認められた興味ある反応はIA条件下では認められなかった。H群においては環流液中のNO濃度、PGI_2濃度が上昇しており、同時に肺組織中のecNOS,COX-1の発現増加を認めた。以上の解析結果により、高濃度酸素暴露損傷肺では細静脈を中心にCO_2による拡張反応が消失するが、この拡張反応の消失にはecNOSの過剰発現に起因する過剰のNOによってCOX活性、特にCOX-1が抑制されたためだと結論した。
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