研究概要 |
低酸素による肺血管リモデリングの機序を低酸素誘導転写因子(HIF)に焦点をあて血管内皮細胞の低酸素応答から明らかにすることを目的として本研究を行った。平成10年度は、HIF-1の認識塩基配列5′-RCGTG-3′をレポーター遺伝子と組み合わせ各種血管内皮細胞へ遺伝子導入することで各種血管内皮細胞の低酸素応答を評価するシステムを構築し、内皮細胞の低酸素応答解析を行った。HIFが認識する低酸素応答塩基配列(HRE)を含むリポーター(Re)遺伝子発現アデノウイルスベクター(Adv)AdvHREとHREを含まないRe遺伝子発現Adv(control)を相同遺伝子組換えにより作成し、まず、これらのAdvが機能することを低酸素応答がはっきりしているヒト肝臓癌細胞株Hep3B細胞で確認した。 目的のヒト血管内皮細胞は、中枢側肺動脈内皮細胞、末梢肺動脈内皮細胞、大動脈内皮細胞を用いた。低酸素刺激は、細胞培養液へ塩化コバルト(Co2+)を添加することで行った。各種ヒト血管内皮細胞へAdvHRE,Adv感染後、Co2+の添加の有無で培養し、経時的に培養上清を回収し、Re遺伝子由来蛋白を定量化し、Co2+有無におけるRe遺伝子由来蛋白の比で低酸素応答を数量化した。Adv感染においてはCo2+有無でReの産生量に変化はなくその比は1であった。AdvHRE感染では、Co2+添加24時間から48時間まで末梢肺動脈内皮細胞がCo2+無添加のものに比較して8倍の高いRe発現量を示した。中枢肺動脈内皮細胞、大動脈内皮細胞では4倍の発現量を示した。 肺末梢血管内皮細胞は近位肺動脈血管内皮細胞、大動脈内皮細胞に比較して早期に高いHIFを介する低酸素応答を示したことは、肺末梢血管内皮細胞が、低酸素へ早期の適応と肺血管リモデリングに重要な役割を果たしていることが示唆された。またHIFが認識する低酸素応答塩基配列(HRE)を細胞内へ導入し、過剰な低酸素応答を抑制する実験は完遂していないがVEGFの発現を指標とした場合、抑制効果が認められた。これは、過剰な低酸素応答で起こりうる病的状態を防ぐ手段となりえることが期待された。
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