研究概要 |
低酸素性肺高血圧の進展には、筋性肺動脈の収縮と中膜の肥厚、非筋性肺動脈への平滑筋増殖が認められる。このような病理学的所見から肺動脈の位置によって低酸素応答の相違が存在するのか、また、肺動脈の低酸素応答の特性を分子レベルであきらかにし、その結果を基に低酸素性肺高血圧の進展の制御の可能性を探ることを目的として本研究を行った。研究実績の概要は以下の通りである。 1. 低酸素誘導転写因子HIFlα(hypoxia inducible factor)をコードするcDNAをクローニングした。 2. HIFlαcDNAの一部をプローブにしてヒト肝臓癌細胞株(Hep3B),ヒト肺胞上皮細胞株(A549),ヒト肺動脈内皮細胞の低酸素環境下におけるHIFlαの発現をmRNAレベルで評価した。HIFlαの発現は低酸素暴露48時間までHep3B,肺動脈内皮細胞において漸増傾向を示したが、一方、A549ではHep3Bや肺動脈内皮細胞に比較してHIFlαの発現は低い漸増傾向は示さなかった。 3. HIF-1の認識塩基配列5'-RCGTG-3'をレポーター遺伝子と組み合わせ各種血管内皮細胞へ遺伝子導入することで各種血管内皮細胞の低酸素応答を評価するシステムを構築し、内皮細胞の低酸素応答解析を行った。HIFが認識する低酸素応答塩基配列(HRE)を含むリポーター(Re)遺伝子発現アデノウイルスベクター(Adv)AdvHREとHREを含まないRe遺伝子発現Adv(control)を相同遺伝子組換えにより作成した。肺末梢血管内皮細胞は近位肺動脈血管内皮細胞、大動脈内皮細胞に比較して早期に高いHIFを介する低酸素応答を示した。これは、肺末梢血管内皮細胞が、低酸素へ早期の適応と肺血管リモデリングに重要な役割を果たしていることが示唆された。またHIFが認識する低酸素応答塩基配列(HRE)を細胞内へ導入し、過剰な低酸素応答を抑制する実験はまだ完遂していないがVEGFの発現を指標とした場合、抑制傾向が認められた。これは、過剰な低酸素応答で起こりうる病的状態を防ぐ手段となりえることが期待された。
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