一般に検診事業では精度管理が重要であるが、実施地域全体として効果を上げるためにはカバー率も重要である(胸部CT検診、5(3):185-190、1998)。高槻市・島本町で実施されている肺がん個別検診(以下検診)は、教育的波及効果として参加医の肺癌診療レベルの引き上げ、実質的なカバー率を上昇させる可能性が有る。この教育的波及効果を検証することが本研究の目的である。 自験例396例の分析では、高槻市・島本町在住の肺癌患者の予後が、要精検者の予後追跡が可能になった1991年以後、検診外発見例に限っても有意に良好であった(肺癌39(1):17-25、1999)。 そこで1990年以前の6年間(前期)、1991年以後の6年間(後期)の高槻市、島本町(観察地域)における肺癌死亡数を同時期の周辺3市(茨木市、摂津市、枚方市)のそれを対照として比較したところ、前期では観察地域の死亡数は476例、対照地域の調整死亡数は872例で、10万人あたりの死亡率は37.0人と全く等しかった(p=0.9787)。後期では、それぞれ634例と1283例、死亡率は45.8人と51.2人で、対照地域に比較して観察地域で有意に肺癌死亡数が少なかった(p=0.0233、死亡率にして約10%)。1997年までの検診での発見肺癌患者数は22例で、治癒切除率は45%(肺癌、39(5):726)で、上述の結果が検診による直接効果とはいえない。観察期間中に隣接する両地域の医療事情や肺癌罹患率が大きく変わった可能性は低く、肺癌患者の予後に有意な差が生じたと考えられる。肺癌治療の現状を考えると、これは肺癌発見の早期化、つまり地域の肺癌診療レベルの向上によってもたらされたと考えられ、個別検診の波及効果による可能性が高いと考えられた。 教育的波及効果を肺がん個別検診の目標の一つと考えるべきである。
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