ADと対照脳より大脳皮質を切り出し、それぞれの可溶性画分に合成Aβ1-42を等量加え、37℃でインキュベートし、ECL法によるウェスタンブロットを行なった。Aβモノマーや高分子領域にスメア状パターンの動態より、AD脳におけるAβの分解活性の低下や重合活性の増加の可能性が示唆された。次にAβ分解活性を検討するために、その一つとして報告されているインスリン分解酵素(IDE)を測定した。AD脳、対照脳それぞれの可溶性画分中にI^<125>でラベルしたインスリンを加えてTCAによっても不溶化しない画分に回収される放射活性を測定したが、lDE活性は両者の間に有意差がなく、本酵素の減少がADの病態に深く関わっている可能性は低いものと考えられた。また、ヒト小脳抽出画分に元々含まれるAβの定量を行なったところ、小脳皮質、小脳血管ではいずれもAβ42がAβ40よりも多く、Aβの総量の少ないときは全長型のAβx-42の割合が低いことが明らかとなった。従って、小脳の主な老人斑である濔慢性老人斑では最も初期にはN末端の切断などを受けた分子種も含んだAβ1-42が沈着し、その後Aβの総量が増加するにつれて、Aβ1-42やAβ40も蓄積してくることが示された。また、小脳切片のコンゴーレッド染色にて重屈折性がみられないことより、小脳では重合して線維化する前のAβの沈着が主体であると考えられた。最後にヒト小脳抽出画分に含まれるAβ重合抑制活性の解析するために、凍結保存された正常ヒト剖検脳より小脳皮質を切りだし、細切後リン酸緩衝溶液にてホモジェナイズし、超遠心により上清を得た。また、一定量の合成Aβ1-42ペブチドやAβ1-40ペプチドを脱イオン水に溶解し、Aβ溶液とした。正常ヒト小脳皮質の抽出画分とAβ溶液をインキュベートし、小脳抽出画分中にAβの重合抑制活性が含まれることをThioflavin T(ThT)結合アッセイを用いて確認した。現在このAβ重合抑制活性を更に精製し、そのアミノ酸配列の同定を試みている。
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