研究概要 |
PETトレーサー(N-^<11>C-メチル-4-アセテート)を用いた脳内アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の定量的な測定法を確立した。すなわち脳内放射能の測定時間、動脈採血の時間、血液中の代謝産物の測定法、3分画モデルによる解析法の最適化を検討し、血漿から脳内への取り込み速度定数K1と脳内AChEによるトレーサーの分解速度定数k3とを算出した。その結果、K1値はSPECTにて測定した脳血流に対応した値が得られた。健常成人において算出されたk3値の大脳皮質:視床:小脳における比は1:3:13であり、剖検脳において測定されたAChE活性比(1:3:8)とおおよそ一致した。このことは本法にて脳内AChE活性を測定できるということを支持する結果である。 この方法を用いて20歳から89歳までの健常成人20名を対象として測定した結果、加齢では大脳皮質のAChE活性は全く変化していなかった。一方、アルツハイマー病9例を対象として測定した結果、AChE活性は健常対照と比較して大脳皮質では平均27%、海馬では平均22%,扁桃核では平均29%低下しており、大脳皮質でのAChE活性の低下は痴呆の程度と相関した。以上からアルツハイマー病におけるコリン作動性神経系機能の低下は正常加齢の延長線上にはないこと、アルツハイマー病では上行性コリン作動性神経系機能の低下があり、痴呆の発現に深くかかわっている可能性が示された。
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