研究概要 |
脳内コリン神経系機能を体外的に計測する方法として、ポジトロンCT用トレーサーである[^<11>C]N-methyl-4-piperidyl acetate(MP4A)を開発した。次にこのトレーサーをヒトに投与したときの脳内アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性の定量的測定法を開発した。すなわち、動脈血中の代謝産物の迅速な分離測定法を確立し、血液中の未変化トレーサーの動態と脳内動態から3分画モデルにて脳内局所のAChE活性を定量的に測定した。この方法で,アルツハイマー病患者19例の脳内AChE活性を測定したところ健常成人14例と比べて脳皮質、海馬,扁桃核において活性の低下(平均24%〜29%程度)がみられ、痴呆の程度が重度な症例ほど大脳皮質のAChE活性が低下していることが判明した。以上からアルツハイマー病では前脳基底部から大脳皮質へ投射するコリン神経系機能の低下があり、痴呆の発現に深く関与していると考えられた。一方、24歳から89歳までの健常成人23例にて脳内AChE活性を測定したが、大脳皮質のAChE活性は加齢によって変化はしないことが判明した。したがって、アルツハイマー病は正常な加齢現象の延長上にはないと考えられた。パーキンンソン病16例において脳内AChE活性活性を測定したところ、約半分の症例では大脳皮質のAChE活性は低下しており、パーキンソン病の程度が重度な症例ほど低下していた。また痴呆を伴うパーキンンソン病症例では低下していた。一方、進行性核上性麻痺12例では視床のAChE活性が低下しており、脳幹から視床に投射するコリン神経系機能の著しい低下があると考えられた。パーキンンソン病では大脳皮質と視床のAchE活性がほぼ並行して低下するのに対し、進行性核上性麻痺では主として脳幹のコリン神経系機能の著しい低下があり、この所見は両疾患の鑑別にも有用と考えられた。
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