研究概要 |
剖検から得られたヒト坐骨神経よりRNAを抽出し,mRNAを精製した.一方,目的蛋白をコードしているcDNAのうち既に同定されているフラグメントの塩基配列を元に,PCR用のプライマーを設計した.まだ同定されていないcDNAの塩基配列を得るために,このプライマーを用い,精製した坐骨神経mRNAをテンプレートとして3'-および5'-RACE(Rapid amplification of cDNA end)法を行った.しかし,反応条件などを様々に検討して試行したにもかかわらず,有意と考えられるフラグメントの増幅産物を得ることができなかった.そこで,実験の組織中に含まれるRNAを半定量的に検出するとともに,RNAの全塩基長を推測するため,神経系,非神経系組織由来の様々なRNAを用い,同定されているcDNAをプローブとしてノーザンブロット解析を行った.その結果,目的とするRNAは,末梢神経や後根神経節などのほか網膜にも検出されたが,他の中枢神経組織や一般臓器には検出されず,特殊な局在を示すことが明らかとなった.しかし,ノーザンブロット解析で検出されたバンドは,当初ウェスタンブロット解析から推測された塩基長よりも遥かに長かった.RACE法は長いフラグメントの増幅は不可能であり,従って,このRNAの如く全長の長い物には適さないため,RACE法によるクローニングは諦め,通常のコロニーハイブリダイザションを行うこととした.ヒト坐骨神経由来cDNAをlambda gt11ファージベクターへ組込んでcDNAライブラリーを作成し,ノーザンブロット解析で用いた物と同じフラグメントをプローブとして,コロニーハイブリダイゼーションを行った.その結果,いくつかの陽性クローンが同定されたため,サブクローニングの後cDNAのシークエンシングを行った.その結果は,最初に同定されていたcDNAの塩基配列と100%のホモロジーを持ち,しかもほぼ全長にわたってオーバーラップするクローンが同定されたに過ぎなかった.結局,坐骨神経という特殊な組織からRNAを抽出する時の煩雑さに由来するRNAの劣化のため,cDNAの全長が同定できないのであろうと結論づけた.
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