研究概要 |
Myotonic dystrophy(DM)は常染色体優性の遺伝疾患で,その原因遺伝子は19番染色体のq13.3に座位し、DMPK(myotonin kinase)をコードしている。この遺伝子の3‘側非翻訳領域にあるトリプレット(CTG)リピートの異常伸長によって疾患が発症すると言われているが、その分子機構は未だ不明である。 本研究では,DMの分子病態を探求するために,異常なDMPK遺伝子の転写産物を視覚的にかつ各細胞毎に検出できる分子細胞遺伝学的な手法(in situ hybridization(ISH)法)を用いて以下の結果を得た. (1) 患者の細胞核に異常なallele由来の転写産物(pre-mRNAまたはmRNA)が蓄積していることが示唆された. (2) 患者の細胞核において,mRNAレベルでは、リピートの異常伸長したmutantallele由来のDMPK転写産物(RNA^M)がnormal allele由来の転写産物(RNA^N)よりも数倍多く蓄積していること、一方、pre-mRNAレベルでは両者にあまり差が無いことが,示された. さらに,分子生物学的手法により,細胞核内および細胞質内のmRNAを各々分離・精製してその発現量を量的に比較した結果,患者細胞においては,対照に比較してDMPKの転写量が優位に核内で高いことが示唆され,前述のISH法での結果を支持していた. 以上,転写後プロセシングされ成熟したmutant allele由来のmRNAが患者の細胞核内で蓄積しているという結果は、DMの多様な病態を解明する手がかりとなる可能性があるため、今後さらに分子生物学的手法を用いた詳細な検討が必要である.
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