研究概要 |
本研究においては、HVJ-リポソームを用いたin vivo遺伝子導入法によりヒト型のアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子を脳組織内へ導入し、脳内独自のレニン-アンジオテンシン系の亢進したモデル動物の作製を試みた。次に、遺伝的高血圧モデル動物として知られる自然発症高血圧ラット(SHR)を対象に、AEC遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンジオテンシノージェン遺伝子の転写調節因子に対するおとり型核酸(デコイ)をHVJ-リポソーム法により脳内に投与し、脳内レニン-アンジオテンシン系の抑制を試みた。ヒトACE遺伝子導入後、翌日より血圧、心拍数の上昇を認め、少なくとも14日目まで持続していた。また、ACE活性およびアンジオテンシンII濃度が脳組織内でのみ増加していた。さらに、ACE遺伝子導入後5日目の高血圧ラットに対してACE阻害剤を脳室内投与すると血圧が正常化した。免疫組織化学により導入遺伝子の局在を観察すると、脳室周囲組織のみならず大脳皮質、視床下部、延髄などにも広範囲に、かつ長時間にわたって発現していた。この脳内レニン-アンジオテンシン系亢進による高血圧モデルは、脳内固有のレニン-アンジオテンシン系の役割を解明するのに役立つと思われた。次に、遺伝的高血圧モデルであるSHRを用いて、脳内アンジオテンシノージェンの産生を転写因子レベルでの抑制を試み、脳内アンジオテンシノージェンの血圧調節との関連について検討した。20週齢の雄性SHRおよびWistar-Kyoto(WKY)ラットの脳抽出液から核蛋白を抽出精製し、ゲルシフト法により脳組織においてもアンジオテンシノージェン遺伝子の結合部位相同配列に対する結合蛋白(AGE2,AGE3)が検出された。各々の蛋白の結合活性はどれもSHRでWKYより増加していた(図7)。SHRにおいて、おとり型核酸(デコイ)を脳室内に投与すると、デコイ投与群では対照と比べて投与1日後から7日後にかけて一過性ながら、収縮期血圧が低下した。また脳室内投与3日後で比較すると、脳組織内のAogen及びアンジオテンシンII濃度も低下していた。一方、WKYではAGE2デコイ、AGE3デコイのいずれを脳室内投与しても収縮期血圧、脳組織内アンジオテンシノージェン及びアンジオテンシンII濃度には変化が認められなかった。ノーザンブロット法によるAogen Mrna量は、SHRがWKYより有意に多く、AGE2decoy投与により減少した。これらの実験的事実から、脳内のアンジオテンシノージェン産生系が高血圧動物においては遺伝子の転写因子レベルで異常である可能性が示唆された。
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