研究概要 |
平成9年度は、トリプレット・リピート病のなかでも最も著明な表現促進現象を示すDRPLAについて、原因遺伝子内のCAGリピートが不安定である機序を解明するために、DRPLA患者2名の計316個のsingle spermにおけるCAGリピート数の解析を行ない、他のCAGリピート病の知見と比較検討した。その結果、DRPLAのsingle spermにおけるCAGリピートの分散値は他のCAGリピート病と較べて際立って大きく、DRPLAの精子形成段階ではCAGリピートの不安定性は顕著であることが判明した.さらに、リピートの不安定性に関与するcisやtransのfactorが存在する可能性を指摘した(Hum Mol Genet,in press)。 平成10年度は、まず、Machado-Joseph病家系の臨床遺伝学的観察を行い、母親由来でも認められる表現促進現象は、リピート以外のmaternal factorによることを報告した(J Neurol Sci,1998)。次に、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)法を用いて、DRPLAにおけるヒト生殖細胞の分化過程のどの段階でリピート数が不安定となるのかを、formalin固定後の精巣と卵巣を用いて検証した.その結果、(1)LCM法を用いてformalin固定後の組織切片から切り取った細胞群においても、DRPLA遺伝子内のCAGリピート数を同定することができた。(2)現在のLCM100(ARCTURUS)では関心領域を直径30ミクロン以下に絞り込むことは困難であるために、特に精巣の精子形成過程にある細胞群をそれぞれ単離することはできなかった。最近米国で発売されはじめたLCM200では、直径7.5ミクロンの領域から細胞を切り取ることが可能である.我々の研究室では近々LCM200が導入されるので、今後DRPLAをはじめとするCAGリピート病の生殖細胞の分化過程にある細胞群について、単一細胞レベルでリピート数の解析を行い、精子・卵子の形成過程のどの段階でリピート数が不安定となるのかを明らかにし、その分子機構を解明したいと考えている。
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